男性不妊症についてのご理解を

南長野医療センター 篠ノ井総合病院 泌尿器科 和食 正久

男性不妊症の方はたくさんおられます。

昔から10組に1組のカップルは(妊娠による)お子さんができない、とされています。

半数近くは男性にも要因があります。
ということは中学校同学年だった既婚の男性が100人集まったとしたら、10人はお子さんができていないはずです。

そのうち5人くらいは男性不妊症です。つまり普通に周りにいくらでもある、特殊とは言えない状況です。

ただし受診はまだまだ少なく、特に男性は、子を持つ前からの父性本能は女性の母性本能よりも低いからでしょうか、切迫しておらず女性より先に受診されることは少ない現状です。

お子さんができないだけでは健康には直接関係しないとも言えることから、不妊症は病的状態ではないとする考えもある訳ですが、とはいっても健康保険でも診療の一部は認められており、医学的に治療を行うことがあることは誰しもが理解できることです。

男性の場合の原因は、性機能障害や射精障害によるものもありますが、精子の状態によることが多く、それには乏精子症(濃度が少ない)、無精子症(精子が見られない)、精子運動率低下(運動精子の割合が低い。精子無力症とも呼ぶが、変な言葉!)などがあります。

精液所見の基準値は、いろいろと言われており、あるいは発表される年代によって違ってもきますが、およそ精液量は2ml以上、精子数(濃度)は2000万/ml以上、運動率は40~50%、前進運動率(すばやく前進する精子)20%以上(不動精子を含む全精子のうちでの割合)くらいとみていいかと思われます。

精子の異常の原因は、原因不明のあるいは遺伝子のわずかな問題であるなどの特発性造精機能障害が最も多く、そのほか精索静脈瘤(精巣静脈が陰嚢内で膨らんでいる)による造精機能障害や、成人の流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)に伴う精巣炎や薬剤性、放射線性などの造精機能障害、精子の通路が閉塞している閉塞性無精子症、などがあります。

実はこの精液所見と男性ホルモンや男性性機能とは関連ない場合も少なくありません。

ということは、どんなに男性らしく力持ちであっても男性不妊症であることがあり得ます。

治療にはいろいろありますが、体外受精や顕微授精の技術ができて、幅は広がりました。

できれば自然の妊娠に結びつくように、だめでも人工受精(子宮頸管に精子を送り込むだけ)で、それも無理なら体外受精(体外に取り出した卵子と精子を会わせ、授精したなら子宮に戻す)や顕微授精(取り出した卵子に顕微鏡下で精子を注入する)で、何とかならないか、薬剤内服から手術まで最良の方法を考え何とか精子を得て妊娠出産に至るべく治療します。

どうか一般の方々も医療関係者の皆様も、世間には男性不妊症の方はとても多いこと、その中には一生懸命に治療を受けている方がいることを認識していただき、偏見をもつことなく男性不妊症に対して見守っていただけることを望みます。