心房細動について

ゆうき内科クリニック
結城 昌慶

心房細動は不整脈の中では患者数の最も多い疾患です。
脈が乱れて早くなり動悸、息切れを生じたり、心不全を起こしたりすることがあります。また、心房の中に血栓ができ、血栓が全身に飛び、脳梗塞を起こすことがあります。高齢化と伴に増加する不整脈で、合併症予防のために十分な治療が必要です。

心房細動は年齢と共に増加(心房細動は心房の定年)

欧米では40歳以上の4人に1人が心房細動を発症し、60歳以上で急激に増加すると言われています。
我が国の検診データからは、40代では0.1%、50代で0.5%、60代で1.0%ですが、70代で2.1%、80代で3.2%となり、年齢と共に発症率が上昇しています。2005年に心房細動は72万人と推計されていますが、高齢化人口が増加することにより、2020年には97万人、2040年には105万人を越えると予想されています。

心房細動の原因:心臓の負担

ストレス・飲酒・喫煙・過労・睡眠不足・脱水・加齢などが誘因となり発症します。
また、心臓弁膜症・心筋症・心筋梗塞などの基礎心疾患があると心臓に負担がかかり、心房細動を起こす可能性が高まります。バセドウ病(甲状腺機能亢進症)があると心臓が刺激され、心房細動を起こすことがあります。

心房細動の種類

  • ①発作性心房細動:発作性に心房細動が起こるが7日以内にもとに戻る場合
  • ②持続性心房細動:心房細動が7日以上持続する場合
  • ③慢性(永続性)心房細動:治療しても心房細動が持続する場合や、もとに戻っても直ぐに心房細動になる場合

心房細動は心房の暴走運転

心臓には右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋があります。これら4つの部屋がタイミング良く収縮・拡張を繰り返すことで、血液を全身に循環させるポンプとして働いています。
心房細動とは、心房に起こる不整脈で、心房の中で複数の異常な電気が渦状に高速で旋回している状態です(心房の暴走運転)。
正常では、1分間60〜100回、規則正しく心房、心室の順に収縮していますが、心房細動では、心房が1分間に400〜600回も不規則に収縮しています。心房は小刻みに震えてケイレンしたようになります。

心房細動の2大合併症:心不全と脳梗塞

心房細動では心房が規則的に収縮できなくなり、太鼓の乱れ打ちのように不規則に心臓が脈打つ状態になります。心房は震えているだけで血液を送り出すことができなくなるため、心臓の馬力が2割程度落ちて心不全を起こすことがあります。
また、心房が収縮しないために血液がよどみ、心房の中の血液が固まりやすくなります。心房の中でできた血栓が全身に飛び、脳梗塞などの血栓症を起こすことがあります。脳梗塞の約30%は心房細動が原因と言われています。

脳梗塞になりやすさ:CHADS2スコア

脳梗塞の危険因子:心不全(1点)、高血圧(1点)、75歳以上(1点)、糖尿病(1点)、脳梗塞(2点)の合計点数がCHADS2(チャッズ)スコアとされています。
年間脳梗塞発症率は点数の2倍位であり、スコア1点で年間2%、2点では年間4%の割合で脳梗塞を起こすと言われています。スコア1点で脳梗塞予防のために抗凝固薬を考慮、スコア2点以上では抗凝固薬を投与した方が良いとされています。

心房細動の治療:薬物治療とカテーテル治療

①抗不整脈薬

心拍数が早い場合には交感神経抑制薬で脈拍を下げます。また、心房細動を停止する抗不整脈薬を投与することがあります。抗不整脈薬は心不全や不整脈を悪化させる副作用があるため注意が必要です。

②抗凝固療法

心房細動の血栓症予防のために、従来からワルファリンが使われています。ワルファリンはビタミンKの働きの邪魔をして肝臓で作られる血液凝固因子を減らす作用があります。そのため血液が固まりにくくなり、血栓を予防します。
ビタミンKを多く含む食品(納豆、青汁、クロレラ、山菜など)を食べるとワルファリンの効きが悪くなるので避けて下さい。また、カゼ薬や痛み止めを長く飲んでいるとワルファリンの作用が強まるので注意が必要です。
最近、ワルファリンに変わる新薬としてDOAC(直接経口抗凝固薬)と呼ばれる抗凝固薬が使用されるようになりました。ワルファリンと違い、食事制限が不要で、脳出血などの合併症が少なく安全性が高い薬剤です。欠点は新薬であるため高価であることです。

③カテーテルアブレーション(心房細動の根治療法)

心房細動の90%は肺静脈からの異常信号が左心房に入ることで起こると言われています。
高周波カテーテルアブレーションは、高周波通電を行うことで心房筋を熱凝固(焼肉状態)させて、肺静脈を心房から電気的に絶縁する治療法(肺静脈隔離術)です。2〜3時間かかる治療で数日間の入院が必要です。
カテーテルアブレーションは心房細動の根治療法であり、心不全、脳梗塞などの合併症を心房細動のない人と同程度まで減らすことができます。上手くいけば抗凝固薬、抗不整脈薬が不要になりますが、出血、塞栓症、心タンポナーデなどの合併症に注意が必要です。最近、発作性心房細動に対して、クライオバルーン、ホットバルーンによるアブレーションが出来るようになり、1〜2時間で治療が可能となってきています。

まとめ

心房細動は加齢とともに起こり易くなるため、今後さらに高齢化が進む日本では、心房細動の患者数はますます増加していくと考えられています。心不全、脳梗塞を合併することがありますので、動悸、脈の乱れなどの自覚症状があれば医療機関を受診しましょう。
また、心房細動であっても自覚症状のないことがありますので、定期的に心電図検査を受けましょう。